生い茂った草ン中を、這いつくばって進んでいる時のような、
暗闇ン中光る非常口のマークの、ライトアップされた緑色の光のような、
砂場ン中砂にまぎれてポッコリと浮かび上がっているタイヤのような、
視界は無く、それでも方向はハッキリしている、ような感覚だ。
ステージの上に立った、瞬間から瞬間の躍動が始まる。
ただれてケロイド状になった自分が、ほんの一瞬だけ形を取り戻す時だ。
俺は喜びに溢れ、たった一滴だけ涙を流した。
「22年前から、大体の見当はついていたんだ」
ぼんやりと瞼の裏に浮かぶのは、八年前のあの日のことだ。
土臭く蒸した、塹壕のような空間に俺は一人で立っていた。
消えていくだけの自分とその周りの景色、無くなっていく皮膚感覚、
全てが終わっていく感覚を感じたのはどうやらその日が最後だった。
瞼の裏で誰かが言った。
「大体の見当はついていたんだ」
塗り替えられた記憶目の前に 俺はただ放心状態で
流す涙無く 俺はただ放心状態で!
塗り替えられた記憶 塗り替えられた記憶 塗り替えられた記憶
記憶のど真中、ハッキリしているのは三歳の頃の事だった。
そう、俺が寝小便を親に叱られながら婆ちゃんと一緒に眠っていた頃の事だ。
毎朝八時に幼稚園まで、剥き出しの道を剥き出しの感受性で歩いた俺は、
それが次第に消えていくものである事を知っていた。
実家の前の農協や、坂の途中しがみついていたガードレールや、
道路や排水溝や感受性とか!
塗り替えられた記憶目の前に 俺はただ放心状態で
流す涙無く 俺はただ放心状態で!
塗り替えられた記憶 塗り替えられた記憶 塗り替えられた記憶
東京の北、路地から路地を歩く俺の目の前には
潰れかかった喫茶店と眠る占い師と赤味がかったネオンの色しか入ってこない。
そして魂胆の見えない連中と半分目を瞑ったような日々を送っている。
瞼の裏に光は残るか?
残っていたなら何を思う?
そうだ、22年前から、大体の見当はついていたんだ。